この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛しては、ならない
第53章 最後に、もう一度だけ②
「……菊野……大丈夫か」
叫んで啼いて、気を失ってしまった彼女の頬に指で触れると、その唇が僅かに動き、何かを言ったように見えた。
「菊野……なあに?」
「……さん……」
「ん……?」
「……す……き……なの……」
「――」
「剛さ……」
「菊野……っ」
俺は、彼女を潰してしまう程の力で抱き締め、胸に顔を埋めた。
苦しそうに彼女が眉を歪めて瞼を僅かに開き、呆然として俺を見詰める。
今聞いたのは、空耳なのだろうか。
俺がそう思い込んだだけなのか?
それとも、本当に、貴女が言ったのか?
訊ねたとしても、きっと貴女は答えてはくれない――