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愛しては、ならない
第53章 最後に、もう一度だけ②
雲の上を歩く心地で俺はリビングから逃げるように出て、靴を履いた。
彼女の足音が聞こえ、悲しげに呼ぶ声がしたような気がしたが、振り向かずにドアノブを掴み、開けて外へ出た。
傾きかけた太陽の日差しに目を細め手をかざし、西本の家に背を向けて歩き出す。
頬に流れる涙が、向かい風の抵抗に負けて飛んでいく。
あんなに焦がれていた彼女との別れは、あまりにも唐突で、呆気なかった。
別れの言葉さえ言わなかった。
彼女は泣いているだろうか?それとも、面倒な俺が去った事に、安堵しているのだろうか。
彼女の腕が、まだ首に絡み付いているような気がして、俺はそれを振り払うように掌で首を烈しく擦った。
消えない。消えるわけがない。あんなに愛していたんだ。いや、今でも愛しているんだ。どんなにつれなくされても、残酷な言葉で傷つけられたとしても――
俺は生まれて初めて声を上げて泣きながら、橙色に染まる、いつか菊野と歩いた学校までの坂道を歩いた。
桜が舞う中、俺に見せた無邪気な笑顔が蘇り、俺は幻の彼女の姿に向かって別れを告げた。
さようなら……と――