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愛しては、ならない
第54章 四年後
四年前、悟志が倒れ、意識を取り戻したものの、いくつかの事に関する記憶を無くしていたが、その中で最も大きかったのは、剛に関する全てを忘れてしまった事だった。
悟志が倒れたことにより、家の中のバランスが微妙に変化したのを当時小学生だった祐樹も感じていたが、それが具体的に何なのかは分からなかった。
そして、悟志が目覚めてから剛はこの家を出て、工業系の高校に転校し、花野名義の一軒家に住み、学校に通い卒業し、そこから電車で通える大学に入った。
剛がここを出て行った事を知った時、ショックを受けた、と言うより、「やっぱりそうなったか」と言う感想を持った。
菊野は、祐樹に泣きながら何度も「ごめんね、ごめんね祐ちゃん……剛さんを止められなくて」
と謝って来たが、祐樹は目の前で身体を折り曲げて泣きじゃくる、幼い母親を抱き締めて「泣かないでママ……大丈夫、大丈夫だよ、俺が居るから」
と言ってやるしか出来なかった。
剛の事は好きだったが、何処か彼は踏み込ませない所があり、祐樹は兄弟と言えど、ある一定の距離を保って接していた。
あの頃の自分は今よりも幼くて言葉も物事も知らない事が多かったが、剛との距離の取り方は、本能的にそうしていたのだろう。