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愛しては、ならない
第54章 四年後
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剛が一人で住む家は、祐樹が小さな頃に菊野と花野と三人で暮らした事がある懐かしい場所だ。
あの頃祐樹はまだ幼稚園にも入って居ない年齢だったが、おぼろ気に記憶が残っている。
花野と電車に乗って動物園に行き、当時お気に入りだったワラビーの「カンタ」が老衰で亡くなって悲しくて大泣きし、庭にカンタに見立てたワラビーの縫いぐるみを埋めて葬式の真似事をしたり――
縁側には玉葱が幾つも吊るしてあったのを覚えている。
約半年三人で楽しくのんびりと生活した家はその後、花野が時折来ては、ピアノの調律をしたり掃除をしたりしていた。
剛が大学を出て就職したらこの家を出る、と言っているそうだが、花野は
「いいのよ~誰も住む予定もないし、他に住むところを探すのも大変じゃない。いつまでもここに住んでいていいんだからね?」
と言っている。
剛は「それでは申し訳ないです」と、大学の空き時間にバイトを目一杯入れ、家賃を花野に支払っているらしい。
花野はそれを一切遣わずに、剛の為に貯金しているそうだ。
「てかさ――この家は俺だって気に入ってるのに――花野ばーばは剛にな~んか、甘いよな」
祐樹は、ブツクサこぼしながら家の呼び鈴を押すが、応答が無い。
「あれ?確か今日はバイトも授業も無いはずだけどな」