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愛しては、ならない
第54章 四年後
「今日は、ここに来る事、言ってあるのか?」
剛の何気なく聞こえる質問の中に、祐樹は前々から引っ掛かっていた疑問の答えを見つけた。
彼はこの家に来てから、菊野の名前を決して口に出そうとしないのだ。
祐樹の方が家の様子を話題にする事があっても、剛はただ黙って聞いているだけだった。
会話の中にも、菊野や悟志の名前は出てこない。花野と貴文の話はするのに――だ。
今まで感じていた違和感の正体はこれだったのか、と膝を打ちたい気分だったが、だからと言って剛にこの事を突っ込んで聞くわけにいかないのだろう。
「ううん~」
あっけらかんと答える祐樹に剛は唖然とした。
まあ、彼のこう言う無頓着なところは今に始まった事ではないのだが……
「ううんってお前」
「でも……二人とも、今日は……福島だっけ……茨城だっけ……えっと、とにかく東北の何処かに結婚式で出掛けて帰ってこないからさ」
「東北の何処かって……えらくざっくりだな……ちゃんと覚えておけよ……」
「う――ん、何処だっけ~……まあ、いいよ、明日には帰ってくるんだし。その時に聞くよ」
「いや、それじゃあ意味ないだろうが」
適当な祐樹に呆れ、剛は苦笑する。