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愛しては、ならない
第54章 四年後
「まあ……それは分かった」
剛は、いつの間にか元のクールな瞳に戻り、ピアノの蓋を閉じた。
祐樹はこの話題を引っ張るのはまずそうな気がして、咄嗟に話題を変えてみる。
「……ってわけで、俺、今日泊まるから。夕飯何作る~?」
「何が――てわけで、だよ」
「冷蔵庫何がある――?」
祐樹は勝手に冷凍室や野菜室を開けて物色する。菊野や花野が買い物をして置いていったりするので、一人暮らしの学生の冷蔵庫には見えない程に食材は豊富に入っていた。
剛は呆れて笑い、冷蔵庫に頭を埋めてしまいそうな祐樹の尻を軽く叩く。
「いって――な――」
むくれて振り返る祐樹の反撃の拳を避けながら、剛は言った。
「いつも使いきれずに捨てたりするが……お前が来たから丁度良かった。
夏場で暑いかも知れんが鍋料理でもやって在庫処分するか」
「鍋――!やった――!……あ、そうだ!」
祐樹は菊野が渡した二千円をポケットから出して目を輝かせた。
「夕飯したらさ、庭で花火やろ――ぜ!俺、コンビニで買ってくる」
「――はあ?」
――ガキじゃあるまいに、花火なんて……と剛に言われる前に、祐樹はさっさと玄関へ行き靴を履いて外へ飛び出した。
剛のいつもの冷たい瞳の中に寂しい光を見てしまった祐樹は、じっとしていられなかった。
あのまま一緒にいたら自分が泣いてしまいそうだったのだ。
剛にはバカだと言われてもなんでも、それでいい。今夜は一緒に沢山花火をしてバカみたいに騒ごう。
それで彼がほんの少しでも、束の間だとしても、笑ってくれるなら――