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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ
祐樹が剛に似てきたのではなく、剛が祐樹に似ているのだ――と思おうとしても、祐樹がピアノを弾いている時、剛が弾いているのではないか、と思って思わず叫びそうになった事も何度かあった。
リビングのピアノを弾く祐樹の姿――旋律に合わせて揺れる背中、臥せ気味の瞳を隠す長い睫毛を見て、
『まさか……剛さんが帰ってきたの?』
と胸を弾ませてしまうのだ。
だが、祐樹が顔を上げてその屈託のない笑顔を私に向けると同時に、胸の中で膨らんだ期待は急速に萎み、目の奥が痛み、涙が流れてしまうのだった。
祐樹は驚いて『母さん、何処か具合が悪いんじゃない?』と聞くが、どうにか誤魔化して寝室へ引っ込み、一時間程泣き続けたりした。
剛が家に居ない――彼の姿を見ない、というのは寂しくもあり、だがそれが心の平穏に繋がっていた。
時間の経過と共に、彼の不在にも慣れていったが、それでも何かの拍子に彼を思い出し、感情が制御不能になることもあったが、そんな時には
体調が良くない、と誤魔化して部屋へ籠った。