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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ
「ううん……そんな事ない」
「そうかい?」
心配そうに悟志は頬に触れるが、私はピアノの旋律が気になってしかたがない。
どうやら、チャペルの隣のホテルの中から聴こえてくるようだ。
「さあ、皆さん~30分後にホテルの『ストロベリールーム』で披露宴ですよ~!
私達はそろそろ衣装がえしてきま――す!」
真歩は元気よく言って、雲居にお姫様抱っこをされながら皆に手を振ってホテルへと続く小さな花々の咲く小路を行き、すれ違う時に私達にウインクした。
私も手を振るが、ピアノの演奏がクライマックスに差し掛かった瞬間、記憶が甦った。
この曲は、知っていた。
剛と初めて会った時に彼が弾いていた曲――
『……貴女が忘れても、俺は忘れません』
耳元で彼に囁かれた錯覚に、身震いしてしまった。
「寒いのかい?チャペルの冷房が強かったかな……」
「うん……少し寒い……」
私は、剛の幻と想い出を振り切るように夫の胸にしがみついた。