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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ
「……可愛くて、綺麗で、料理が凄く上手で、面白くて……僕には勿体無いくらいの奥さんだよ」
「悟志さん……ほ、誉めすぎ……でも、最後のは何っ?」
「ふふ。なんだろうな。菊野はいつも僕を笑わせてくれるからかな」
「……」
要領を得ない気がしたが、悟志は嬉しそうに笑っている。
病院で首を吊ろうとした時の真っ白で感情が全て無くなってしまったかのような彼が不意にその笑顔に重なって、背筋が凍りついた。
――何故?
何故こんな時にそんな事を思い出すの?
悟志さんは笑っているのに。
真歩も大切な人を見つけて、幸せになったのに。
祐樹も立派な中学生になって、夢に向かって真っ直ぐに進んでいる。
私も、悟志さんを心から愛して――
何処からかピアノの音が聴こえてきて、私の思考はそこで途切れた。
華やかで軽やかなメロデイーなのに、心の奥の柔らかい場所をチクリと刺すのは何故なのだろう。
私が視線を泳がせているのに悟志が気付き、肩を抱いた。
「……大丈夫かい?少し疲れたのかな?」