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愛しては、ならない
第56章 二十歳の同窓会
『一番線に電車が到着します~』
駅のホームでぼんやりと考えていたが、アナウンスで現実にかえる。
ほんの少しでも時間が出来るとこれだから困るのだ。
俺は出来れば菊野の事など忘れたいのだ。菊野に愛され、愛した日々はほんの短い間――一ヶ月も無かったのに、とてつもなく濃密に俺の胸に、身体に爪痕を残している。
それはふとした瞬間に俺を戸惑わせ、涙ぐませようとするのだ。
例えば、髪の長い華奢な女性の後ろ姿を見ると、菊野と見間違えてしまう。
髪の長い女など、この世には沢山いる。華奢な女も――
けれど、俺はいちいち心臓を鳴らして、もしも菊野だったらどうすれば良いのか、と思ってしまうのだ。
そして、今こうして電車に揺られている時にも無意識に菊野の姿を探す自分がいた。
菊野は今頃あの家に向かっている筈だ。
ここにいる筈はないと分かっていても、探してしまうのを止められない。