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愛しては、ならない
第59章 再会②
バスルームから出てパジャマを着てリビングに戻る僅かな時間、菊野がもし帰ってしまっていたとしたら……と心配になったが、先程と同じ姿勢で眠りこけている姿を確認し、思わず頬が綻ぶ。
同じ空間に、愛しい人が居る――
こんな幸せを、あの家に居た頃は当たり前の様に味わっていたのに――
あの頃の俺は、何も分かっていなかった。彼女が傍に居るという奇跡を。彼女に出会えたという運命の大きさを。
水を飲もうと冷蔵庫を開けると、白とピンクの塊が見えて驚く。
塊、等と言ったら菊野は怒るだろう。俺は、それがバースデーケーキなのだ、と理解するのに何秒かかかってしまったのだ。
そんなイベントとは無縁で四年間過ごしてきたのだ。
大学で知り合った女の子達にしつこく誕生日を聞かれても、俺は教えなかった。
誕生日を聞き出して恐らく祝ってくれるつもりだったのかも知れないが、俺は自分がこの世に生まれた事を呪いたい精神状態になることもしばしばだったのだ。
だから、誰にも言いたくなかった。