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愛しては、ならない
第10章 カーネーション
「祐ちゃんありがとうね!ママ、自分で出して手当てするから……
あ、お花ありがとうね?
花瓶に生けてくるわね~!」
私は、ガバッと立ち上がり、剛の顔を見ずに画用紙とカーネーションを胸に抱き締め、花を生けに行く振りして洗面所に駆け込み蛇口を捻った。
胸が苦しくて、嗚咽が後から後から込み上げ止まらなかった。
「はあっ……はあっ……うっ……ひっ……」
私の啜り泣きを、水の音が掻き消して、墜ちた涙は流れて行く。
この想いは、いつか日常に薄まり、これから過ぎ行く日々と共に流れて消えるのだろうか。
こんなに苦しいのなら、そうであって欲しい。
カーネーションの赤は、私の中で燃えている焔と同じ色だと思った。
掌で目を覆い、見えない様に固く瞼を閉じた。
私は、誕生日が来る度、この花を見る度に今日の事を思い出してしまうのだろうか。
あと何度、こんな苦しい想いをするのだろう……
――しかし、私も剛もこの時には分かって居なかった。
二人が家族としてこの家で一緒に暮らす時間(とき)は、そう長くない運命にある事を。