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愛しては、ならない
第10章 カーネーション



「いたあ……」


落ちた時に、肘を付いて擦りむけてしまい、血が滲んでいた。



「わ――っ!
大変だ――!
救急箱取ってくる――!」


「祐樹……大丈夫だから」


止めるのも聞かず、祐樹は二階へ上がっていってしまった。



「……驚かしてすいません」

剛が、私の腕の血を見て顔を歪ませている。


「い、いいのよ……
私がドジだから……アハハ」


ふと、側に転がっているリボンで包まれた画用紙と、赤いカーネーションが目に入った。



「……祐樹と僕で、菊野さんの絵を描いたんですけど……
気に入らなかったらすいません」



「そんな事ないわよ……
ありがとう……」



私がそう言うと、剛は目を細め


「血が……」

と小さく呟いたかと思うと、私の肘を掴み、唇を近付けそっと舐めた。



「――っ」


それはほんの一瞬の出来事だったが、私の胸に、彼が肘を舐めた時の唇と舌の悩ましい動きと妖しい表情が焼き付いてしまった。


勿論彼は何も意識をしている筈はない。


分かっているのに、早鐘の如く胸が鳴り出して、痛い程だった。



「菊野さん……?」



押し黙った私を、訝しげに彼が覗き込むが、私はつい顔を逸らしてしまう。

今、顔を見られたら、彼に抱いている想いを見抜かれてしまいそうな気がした。


頬が熱くて、火傷を負ったかと思う程だった。
鼻の奥がツンと痛み、泣いてしまうのではないか、と慌てた時、祐樹が二階から降りてきた。



「ママ――救急箱何処だっけ~」

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