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愛しては、ならない
第22章 滅ぼせない恋情
「菊野さん……」
彼は足を止め、身を屈め顔を近付けて来た。
「――!」
大きく心臓が跳ね、思わず目を瞑ると、髪に擽ったさを感じる。
涼やかな声で彼は言った。
「――桜が、付いて居ました」
長い指に絡め取られた薄桃の花弁を見て、私は取って付けた様な笑い声を上げる。
「あ……あはっ……
そっか……
あ、ありがとう……」
剛は指先の花弁に、ふうっと息を吹き掛けて風に飛ばした。
舞って行く花弁が、春の蝶の姿に見え、暫し立ち尽くすが、彼も私の手を握ったまま、同じく立ち尽くしていた。
この手を離さずに居られたら、どんなに良いだろう――
強い想いが胸に宿ったその瞬間(とき)、剛が私の手を握る力を込めたように感じた。