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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時


「……学校に、遅れちゃうわ」


菊野は小さな子供に言い聞かせる口ぶりで、俺の制服のネクタイを直した。


「菊野さ……」


「さて!!行きましょう!!今日はいいお天気だったわよね?」


「そうですね……」



烈しく抱き合い、疲れた身体を寄り添わせて、俺と菊野は部屋のカーテンを開けて、白み始めた空が段々と青に色付き、小鳥がさえずり、世界が起き出すのをただ、じっと眺めていたのだ。

いつも、同じ家で眠り、毎朝顔を合わせているが、今朝は今まで迎えてきた朝とは違うのだ。

愛し合った後に、一緒に迎える朝――

それは多分幸せな朝なのだろう。

だが二人は、この先もこんな風に寄り添って朝日を眺める事が出来るのだろうか。

愛する人と夜を過ごし、そのまま明日を迎える――そんな普通の幸せが、許されるのだろうか?
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