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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時
春風にフワフワ靡く色素の薄い髪を白く長い指で触れて、森本は優雅な笑み――それこそ童話に登場する王子様、というのはこんな容姿なのではないだろうか――
俺にではなく、その笑みを他の誰かに向けて手を大きく振っている。
ちりちりとする胸騒ぎをおぼえながら、彼の視線を追って振り向くと、その先にはホテルの前で立ち尽くしている菊野がいた。
菊野は、戸惑った様子にも見えたが、柔らかい笑顔を森本に返し、頭をチョコンと下げて家の方へ歩いていった。
相変わらず、頼りなげな足取りだ。
転びやしないのか、ハラハラしてしまう。
俺が隣に居たなら、その細い肩を抱いて離さないのに――
「心配で仕方がないって顔だな」
森本が、笑っている顔をこちらに向けているが、その瞳の中に底知れない輝きが見える。
俺は、唇の端を上げて彼を見返した。
感情を読まれないようにするために俺が身に付けた『笑っているフリ』だ。
物心付いた頃からの防御の術でもある。