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愛しては、ならない
第31章 企み
「清崎?」
俺がその言葉を聞き返す前に、彼女は俺をその細腕で引っ張り、一本裏の通りへと早足で行き、自販機の陰に隠れる様に身をひそめると、俺の手を握り締めたままで熱い瞳を向けてきた。
その瞳にも、結ばれた唇にもある種の強い意志が宿り、それを覆すのは困難に思えた。
彼女が先程口にした言葉をまた言わせたらいけない、と思った俺は、その目を真っ直ぐ見据え、意を決して切り出した。
「清崎……俺は……
愛している人がいるんだ」
「――菊野さん……でしょ?」
彼女の大きな瞳が煌めいた。
俺は言葉を失うが、誤魔化そうと口の端を上げる。
「何だよそれ……
下手な昼メロじゃああるまいに……」
「――分かってるんだから……私……」
思い詰めたその声が、切なく響いた。