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愛しては、ならない
第31章 企み
菊野への思いを消せる訳がない。
だが、清崎のひた向きさを非情に切り捨てる事が俺には出来ない。
腕の中で苦しそうにもがく彼女を、俺は更にきつく抱き締める。
「俺は……何も約束出来ない……
清崎だけを大事にするなんて……絶対に言えない……
だから……」
「いいの……そんな事、構わない……
隣に居れれば、それでいいの……」
「――」
俺が力を緩めると、彼女は花のように微笑み言った。
「さあ、本当にお医者様に診て貰わないと!行こう!」
自分の細腕を俺の腕に絡ませ、快活な口調で言う彼女に、俺は曖昧に頷く事しか出来なかった。
俺達は、道中、それまでの深刻さを振り払うかのように他愛ないお喋りをしながら時折笑い声をあげた。
俺は気付かなかった。
腕に頭をもたせかけて隣を歩く彼女の瞳の奥底には、今までにない鈍い光が宿っていることを――