この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛しては、ならない
第33章 壊れるほどに
弾こうとした導入部のメロディを、彼のしなやかな指が難なく弾くのをうっとりと見詰めていたが、彼が耳に囁いて来る。
「菊野さんは、ピアノを習わなかったの?」
「うん……小さな頃に母が教えてくれた事もあったんだけど……
私が練習嫌いで……
絵本を読んだり、お料理をする方が好きだったから……」
剛は、涼やかな小さな笑いを溢し、鍵盤から指を離すと私の身体を包み込んだ。
きゅう、と胸の奥がときめいて、同時に目眩をおぼえた。
「あいつ……森本……」
バクン、と心臓が跳ねたのを、彼に悟られなければいいが。
私はなるべく平静を装う。
「森本君……?がどうかしたの?」
「――俺が聞きたい事が、わかっているでしょう?」
剛の声に、少しの苛立ちと嫉妬が混じっているのを、私は嬉しいと思ってしまう。
「ううん……わからないわ」
私がとぼけると、彼の腕に力が込められた。