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愛しては、ならない
第33章 壊れるほどに
悟志は依然として眠り続けている。
未だに何が原因なのかわからないまま、白い病室のベッドで、まるでこれが当たり前なのかのように静かに。
彼は、眠っている時まで優しい表情だ。
倒れたあの夜、私を烈しく抱いた彼の熱くて燃える瞳と、意識を失う直前のとてつもなく穏やかな瞳。
どちらも胸に焼き付いて私を苦しめる。
けれど剛の姿を目に映した瞬間、私をずっと想って大切に守ってくれていた貴方の事を、跡形もなく忘れてしまう。
――なんて酷い。
ピアノの蓋を再び開けて、剛が先程まで弾いていた練習曲を、思い出しながら指で辿って鍵盤を押してみる。
たどたどしいその音は、何処か物悲しくリビングに響いた。
「――真歩さん、ぐっすり眠っていますよ」
背中に、剛の声と、掌の温もりを感じた。
視界に彼の長い腕としなやかな指が入る。
私の背中と肩を包み込む様にしながら、彼は旋律を奏でる。