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愛しては、ならない
第34章 恋の短夜(みじかよ)


彼女はゆっくりとその口から俺を引き抜いて、掌で口元を押さえて眉をしかめ、咳き込んだ。

喉につっかえているのだろう。俺は華奢な背中を擦り、呆然と彼女を見詰めた。

まさか、菊野がこんな事をするとは思わなかったのだ。

とても口にできた物じゃ無いだろうに、彼女は……

そこで、ふと嫌な考えが頭を掠める。

直ぐに打ち消そうとしたが、その考えは映像を伴って俺の胸を蝕み始める。

菊野が、悟志と交わる時に、俺にした様に彼を飲み干したのだろうか――?



彼女がようやく落ち着きを取り戻し息をホッとついた時、俺は細腕を掴み彼女を真っ直ぐに見た。



「……ごめんなさい……こんな事をするの……剛さんが初めてで」



頬を染めているのは咳き込んだせいなのか、羞恥からなのか、それとも演技なのか判断出来ない。


「……本当に……?」


俺の呟きは、自分が驚いてしまう程に低かった。








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