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愛しては、ならない
第34章 恋の短夜(みじかよ)

「――愛しています」
そう口にした瞬間(とき)、心の奥底の何か固いものがはらり、と剥がれ落ちるのを感じた。
友情でもなく、同情でもなく……母親への情でも無い。
いや、この感情が何なのか、名前を付ける事は相応しくないような気がした。
貴女の事がたまらなく可愛くて、欲しくて、いじらしくて、時に悲しく、憎くて――
抱き締めたくて、包み込んであげたくて――
そんな風に色んな思いや欲が混ざりあい、溶け合って、俺を戸惑わせるんだ――
この感情に敢えて名を与えるなら、愛しか当てはまらない。
そう、俺は、菊野を愛している――
彼女は、大きく大きく目を開き、綺麗な涙を一粒流す。
そして、消え入りそうな甘い声を静かに響かせた。
「私が……先に……そう言いたかったのに……」

