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愛しては、ならない
第38章 愛憎③


俺は内心ギクリとして、キッチンに居るであろう菊野がこの会話を聞いていないかを気にして声を落とし、鞄を軽く祐樹の頭にぶつけた。


「話を逸らすな。

自分の荷物はちゃんと片付けろ」


「む――剛のいんばり――」


祐樹は頬を膨らませながらも、ゲーム機をポケットに入れて鞄を持つと二階の自室へと階段を上がっていった。

俺は、祐樹が部屋へ入った事をドアの音で確認し、キッチンの方を向く。

菊野は鍋を見張るように、スツールに腰かけて小さくなり体育座りをしている。

その様子が可愛らしくて思わず笑いを溢すが、菊野は俺に全く気がついていないようだった。

一点を見詰めて――いや、彼女は何も見ていなかった。

何処か遠くの何かを虚ろに眺め、何かを懸命に考えているように見えた。

俺は急に不安になり、彼女の手を握り締めた。


「――菊野さん……菊野!」


「――――!?」


彼女は冷水でもかけられたかのように身体を大きく震わせ、大きく目を見開き俺を見た。





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