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愛しては、ならない
第38章 愛憎③
あんなに瞳を潤ませて、あんなに身体の中を濡らして、蕩けるような甘い声で啼いたのに――
俺の口付けに、愛撫に、失神するまで感じていた癖に――
私に触れないで、だって?
触れないで――
言われた言葉が頭の中で反響する。
拒絶の言葉が幾度も鼓膜に、心に突き刺さり、抉られる。
――触れないで。触れないで。触れないで。触れないで。触れないで。
「はは……はははは……」
俺はヒステリックに笑い、襲いくる凄まじい頭痛を堪えながら床を転げ回った。
「剛……剛!しっかりしろ!どうしたんだ!」
祐樹が切迫した声で叫んでいるが、俺はそれまでも可笑しくて仕方がなかった。
――どうしたんだ、だと?
俺は恋に狂った挙げ句捨てられようとしているんだよ。
お前の母親にな。
しっかりしろ、だと?
俺がこのまま発狂して廃人になろうと、死のうと、構わないだろう?
『あんたなんか要らない』
忘れようとしても記憶から消せないあの女の声がまた頭の中に響き、俺に呪いをかける。
そうだ、俺は要らない人間なんだ。
この家には必要ないんだ――
菊野はもう、俺は要らない……ん……だ……
「剛、剛――!」
遠くで祐樹の叫びを聞きながら、俺はやがて意識を手放した。