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愛しては、ならない
第40章 更に抉られる、傷痕
「痛っ」
指先に鋭い痛みが走り手にしていた包丁を思わず離し、足元すれすれに派手な音を立てて落下した。
音に驚いた祐樹がテレビの前から飛んできて、転がっている包丁を見て目を丸くする。
「うっわ――あっぶないな――!今に指どころか足まで怪我するって!」
祐樹は、呆然と切れた指先を見詰める私に叱るように言うと、包丁を拾い注意深い手付きでシンクで洗い始めた。
「祐ちゃん、怪我したらいけないわ……ピアノのコンクールがあるのに……」
「も――、ママがそれを言うの?
大丈夫だって!
そんなことより早く手当しなきゃ!!」
「う、うん」
私はテイッシュで指を押さえながら救急箱から消毒液とガーゼを出して手当をするが、痛みに思わず声を洩らしてしまう。
「うう――痛い」
「痛いの痛いの飛んでっけー!
……ママさあ、刃物を持ってる時には考え事したら絶対に駄目だよ!」
「……うん、そうだよね」
祐樹が側にやって来て、器用に手当をやってくれた。
指に包帯を上手に巻いてくれてニッコリとする。
「暫くはお料理しなくても、インスタントとか買ってきた物でもいいんじゃない?
今、俺とママだけだしさ」
「――」
何気無く祐樹が言ったその言葉が胸に突き刺さり、絶句してしまう。