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呟きたい
第8章 おかえりなさい

 一章劇場

 欲求不満より

 ―類沢先生に旅させてみたい―

 ガラッ。
 「あれ?」
 類沢は開いた扉に手をかけたまま固まった。
 確かにいつもの通り、放送室にやってきた筈だった。
 「会場変わったの……」
 見たことのない部屋。
 旅館みたいな間取りだ。
 後ろを振り返ると、今しがた出て来た扉がなくなっている。
 壁でもない。
 類沢は部屋の中央に立っていた。
 足で畳の感触を確かめる。
 とりあえず戻れないみたい。
 白衣に和室が随分不釣り合いだ。
 横にあった押し入れを開くと、浴衣が入っていた。
 広げて眺める。
 これを着るのもな……
 コンコン。
 ノックの後に、女将の出で立ちをした栗鷹鏡子が入ってきた。
 「鏡子さん」
 「ああら。ここのお客さん、雅だったの?」
 「客?」
 「まぁ、いいから。朝食運んで来ましたよ」
 膳が運び込まれる。
 伝統的な和食。
 箸に手は伸びない。
 「失礼しやす」
 「鏡子さん、一つ訊いていいかな」
 「二つでもよろしくてよ」
 類沢は目を細めた。
 「楽しんでるでしょ」
 「だって女将さんなんて滅多にやれるもんじゃないから」
 「はー……面倒だからこれが何の企画かは訊かないよ。ここはどこ?」
 「えっと、確か山の麓の創業三十年の旅館だったかしら」
 意外に短いな。
 そういうことじゃない。
 「家からは遠いの?」
 「軽く車で四時間くらい」
 四時間。
 類沢は溜め息を吐いた。
 一体何がしたいんだ。
 「ああ。安心して。雅の車もちゃーんとあるから」
 「鍵は?」
 「はい」
 鏡子が軽く投げたものを片手でキャッチする。
 確かに、自分の鍵だ。
 「その格好は目立つんじゃない?」
 「ここは温泉街か何か?」
 「ええ。全国でも有名な」
 「なら着替えるよ」
 「ごゆるりと」
 鏡子が出て行ってから服を脱ぎ、浴衣に腕を通す。
 帯を締め、部屋の脇の鏡を見る。
 久しぶりに着たな。
 髪は下ろして、一つに束ね直した。
 車があるなら帰れる。
 ひとまず出歩いてみるのも悪くない。
 むしろこのまま帰る方が悪い。
 それだけはわかる。
 親切にも下駄が用意してあった。
 サイズもぴったりだ。
 「行ってらっしゃーいませ」
 「悠はいるの?」
 「さっき出て行ったわ」
 愉快げな鏡子を背に、類沢は旅館を出た。
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