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呟きたい
第8章 おかえりなさい
泣く子はどこか
泣く子はどこか
菓子をやろうか
独楽をやろうか
泣く子はどこか
止ませてやろう
泣く子はどこか
看板に書かれた唄。
童謡か。
石畳の先に点々とこうした看板が並んでいる。
それを眺めながら歩くのも面白い。
店を覗くと土産物も様々だ。
饅頭からキーホルダーまで。
通りは観光客で賑わっていた。
女性が多い。
類沢はその中に蓮花を見た気がしたが、気のせいにした。
柄杓でお湯を掬い、無病息災のため石像に掛けている。
そばに篠田もいた。
それも気のせいだろう。
楽しそうだから、放っておいた方がいいはずだ。
悠は意外に早く見つかった。
一人で射的にいた。
前のめりになって標的を睨む彼の背中をポンと叩く。
「おわっ。危ないな、雅」
「一人?」
「鏡子は女将を満喫してるからな」
悠は銃を台から取り出し、類沢に渡した。
「せっかくだから勝負しないか」
「せっかくの意味がわからない」
「いいから」
銃を渡された類沢は、弾の込め方もわからず、立ち尽くしていた。
見かねた悠が弾を込める。
「やったことないのか」
「温泉街も縁日も行ったこと無いから」
「……そうか」
手本を見せるといって、台にもたれる。
なるべく手を伸ばし、息を止めて撃った。
パンっという音の後に、小さなウサギのぬいぐるみが落ちた。
店員から受け取った悠は、それを類沢の前に置く。
「いらないよ」
「とっておけ」
三発可能らしく、その後も箱キャラメルやご当地キャラクターのポストカードを落とした。
すべて、類沢の前に席を占めて。
「欲しい奴を落としなよ」
「この無駄な感じがいいんだ」
溜め息を吐く。
袖を捲ってから、銃を構えた。
銃身に頬を付けて、安定させてから目線と同じ標的を狙う。
結構難しいな。
類沢は揺れやすい銃口が照準を合わせた瞬間、引き金を引いた。
タンッ。
龍の描かれた扇子の中央に当たったが、弾き返された。
「あれは無理だな。重すぎる」
「あれしか撃ちたいものがないんだけどね」
類沢は悠の制止も聞かずに、その扇子だけを狙うことにした。
二発目で揺れた。
「右端にいけっ。」
悠が小声でアドバイスする。
右に銃口をズラす。
息を吸い、指に力を込めた。