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呟きたい
第8章 おかえりなさい
 一際大きく響いた銃声の後、扇子が舞った。
 カラン。
 落ちた音すら上品だった。
 店員が額を押さえる。
 「目玉を持ってかれちゃいましたなあ」
 「目玉?」
 「負けだ、負け。雅、お前の勝ちってことだ」
 類沢は扇子を受け取り、帯に差し入れた。
 ぬいぐるみやキャラメルは仕方ないので袖に隠した。
 「金はあるのか?」
 「まあ、一応」
 「この先に有名な占い師が来てるらしいぞ。やってったらどうだ」
 悠は少し悔しそうに銃を置いて、旅館の方に歩いて行った。
 占い師か。
 そういう類は興味を持ったことがない。
 大体他人にただ評価されただけで、何が変わるんだ。
 それでもまだ日が長いので、類沢は悠に言われた方向を目指した。

 人だかりが出来ている。
 占い師かと見れば、手品を行う青年がいた。
 長いロープが観客の前でどんどん分裂していく。
 結び目を作ったかと思えば、いつの間にか解ける。
 まだ、慣れてはいないんだろう。
 類沢はタネがわかって、また歩き始めた。
 少し奥まった薄暗い場所に、小さな屋台があった。
 商品はなく、机の前にフードを被った人影があるだけだ。
 ここだ。
 類沢は椅子に座る。
 「……占いをお望みですか」
 「ああ」
 声は若かった。
 しかも女性だ。
 「お名前は?」
 「類沢雅だ」
 「何を占いますか」
 「何を?」
 「恋愛ですか。企業の先行きですか。家族の問題ですか。近しい交友関係ですか。それとも……」
 女性が机上で手を組む。
 「死に様ですか」
 「それ、訊く人いるの?」
 「ええ。たまに。ただ、大抵後悔して帰りますがね」
 「決まった訳でもないだろうに」
 「言霊ですよ。言われただけでそうかもしれないと不安になるんです」
 涼しい風が靡く。
 フードが揺れる。
 口元しか見えないが、類沢は見覚えがある気がした。
 「何を占いますか」
 「そうだね……家族を訊きたい」
 類沢は試すように笑った。
 今、どこで何をしているかなど、どうでも良かった。
 この占い師が何を言うのか気になったのだ。
 少し口を結んだ後、何かに憑かれたようにスラスラ話し出す。
 「貴方の家族は、母、父、姉がいました」
 肩に力が入る。
 構成?
 「父は貴方が生まれる前に亡くなりました。母は生活が苦しく、貴方に暴力を振るうようになりました」
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