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呟きたい
第8章 おかえりなさい
 時が止まったように周りの音が消える。
 「そこを姉が止め、赤子である貴方の命の危険を感じて貴方を余所に移すことに決めたのです。その後、彼女も家を出て家庭を持っていました。母はすぐに自殺しました」
 視界が眩む。
 淡々と云ってくれる。
 類沢はそれでも聞き入っていた。
 「貴方の姉は一人の娘を授かりましたが、元々体が弱かったこともあり……去年の暮れに肺炎で亡くなりました」
 「去年の、暮れ?」
 「姪にあたるその娘は、亡き母、貴方の姉からの話を元に貴方を探そうとしています」
 姪?
 「姉とは随分年の差があったようで、その姪はもうすぐ高校に上がります。父の収入も安定せず、働きながら学生生活を送っています」
 「今、どこにいるのかわかるのか」
 彼女は首を振った。
 それから類沢の手に触れる。
 一瞬、フードの中の眼が自分を見つめた。
 自分に見つめられたような錯覚がした。

 「全ては言霊です」

 冷たい手がスッと引く。
 「信じる者が救われるなど、天使の戯言。嘘が御上手な神様は、選択して信じてゆく者だけを真実に導くことでしょう。貴方の家族が交わることは、二度とない。もちろん、これも貴方の行動次第で変わる未来と言えましょう」
 女性が立ち上がる。
 余りの背の低さに些か驚いた。
 まだ、少女というに相応しい。
 「星を見上げて考えたことなど塵に等しい。大切なのは巡り合わせで得た言葉のパズル。最後のピースが嵌った時、見られる景色は占いなどでは先読みできません。全ては言霊……」
 夢の中にいた気分だ。
 少女はいなくなっていた。
 机には紅葉が散っている。

 ―その姪はもうすぐ高校に上がります―
 まさか。
 屋台の奥の道を見つめる。

 ―働きながら学生生活を送っています―

 類沢は目頭を押さえ、大きく息を吐いた。
 全ては言霊。
 そうだと想うのも自由。
 もし、自分に本当に姪がいたとしたなら、彼女くらいの年齢なのだろう。
 易者の収入は厳しい。
 なら、何故彼女はここにいたのか。
 全てが疑わしくて、夢のようだ。
 家族はみんな亡くなって、唯一血の繋がる姪が今去った。
 二度とない、か。
 あの少女を追いかければ、変わるかもしれない。
 だが、類沢は引き返した。
 そもそも占いなどでは、未来は決められないのだから。
 僕は興味ない。
 占われた家族像など。
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