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呟きたい
第8章 おかえりなさい

 布団を敷き、電気を消す。
 昼の占いもあり、疲れていた。
 だが、目は冴えている。
 頭の下で手を組み、天井の木目をぼんやり眺めていた。
 月明かりが障子で濾され、淡い光を分散させている。
 まだ温泉の熱が残っているのが驚きだった。
 水道水とは違う効能が確かにあるんだろう。
 「先生……起きてます?」
 「起きてるよ」
 雛谷が寝返りして、此方を向いた。
 「最後かもしれませんね」
 「最後?」
 「こうして、先生である類沢雅と話すのは」
 類沢は意味に気づき、目を瞑った。
 「……そうだね」
 「なぁんか、寂しいですね」
 「そうでもないよ。終わる訳ではないんだし」
 冷気が流れる。
 窓の方から。
 「先生は、なんで教師になったんですか」
 「今訊かなきゃって思った?」
 「読まないで下さい」
 「なんでかなあ……きっかけは覚えていない。安定しているとか、あとは医者になり損ねたからかな」
 「医者になる予定だったんですか」
 「高校ではね。成績は足りてたんだけど、奨学金が降りなかった。とてもバイトじゃ賄えない額だったから」
 「親は?」
 「いないよ」
 「そうでしたか……」
 「そっちは?」
 「つまんない理由ですよ。中学の時に、化学が一番好きだったから、一生化学に携われる職業を選んだだけです」
 「研究は?」
 「してましたけど、論文が一回酷く批判されましてね。それ以来意欲が無くなっちゃって」
 「そう」
 雛谷が仰向けになる。
 おもむろに上に向かって手を伸ばした。
 枕がギシと軋む。
 「この手で出来ることなんて、ちっぽけだと思いません?」
 「ちっぽけだよ。生徒の命を預かったって、零れるものは、止めきれない」
 その手で目を覆う。
 「昔ねー……受け持った生徒がいじめの末に自殺したんですよ。その前日泣きついてきたんで、三時間くらいかなぁ、話をしたんですね。それで留められた気になってたから……翌日は現実が信じられなくて」
 「生徒の人生まで負わなくてもいいとは言え、親より近くで眺めていれば難しいよね」
 「あっ」
 「ナニ」
 「いや、共感してくれたぁって思って」
 「僕も色々見てきたからね」
 「保健室ってダイレクトに悩み相談とかされません?」
 「されるよ。一回、出会い系に苦しんでた子の為に三十年上の男と殴り合ったこともある」
 「うわ……」
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