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ここで待ってるから。
第7章 夢の後先。
〈夏の領分 ②〉


「えっ?!はい。うちで出版してる絵本ですが…。」

 水瀬先輩は出た電話にかなり焦っている。
 事務員の竹子さんも、衝立を覗いてる。
 そこに、営業の園子さんと神野さんが帰ってくる。

「竹ちゃん、社長どうしたの?」

「なんだか、テレビ局の人から電話で。えっと、ほら有名なモデルさんが昔読んだ心の一冊って事で、うちの絵本を推薦したわけよ…。」

 時間は五時前。
 自分の分の仕事を終え、ざっと机の上を整理する。

「園子、莉音、竹ちゃん、夏!!大変。『五人の王子と桜姫』増刷するよ。竹ちゃん今から、印刷回して。園子、莉音はこれから書店からジャンジャン電話来るからね。夏、貴方も今日から帰れないから。」

 竹子さんは印刷会社に連絡をとる。
 案の定、園子さんと神野さんのケータイやデスクの電話が鳴り響く。

 今日、休みだった鷺宮さんと城田さんも呼ばれる。弱小出版社が日の目を見る時が来たみたいだ。
 先輩は車を出し、俺をマンションに届け先輩は自分の荷物を取りに帰り、また俺を拾ってくれるらしい。

 荷物をまとめていると、深山さんの所から橙子さんが帰って来た。

 やっぱり、嫉妬している。そんな自分が嫌になる。
 橙子さんが苦しむ姿は見たくないし、幸せになって欲しい。俺がいる事で、辛い思いをしてるならイトコに戻ろう。

 でも、橙子さんを抱けば抱くほどあの肌に溺れていく。
 俺の形に身体を変えて、包み込んでくれる。
 あんなにセックスって気持ちよかったなんて知らないでいた。
 いつでも、抱きしめていたい。

「イトコに戻ろう。」

 もう、これが俺の精一杯。



「夏のイトコは綺麗な人ね。」

 先輩はどこか気を使って話しかけてくれる。

「はい。綺麗で優しくて…大好きな人です。」

「…人を好きになるって、素敵な事ね…。私の恋愛はどこに行ったのやら。」

「先輩は好きな人、いますか?」

「私、かなりのファザコンなの。父と二人で生きてきたから。かなり、恋愛から遠のいているわ。もし、誰かと恋に落ちるなら、父の様な男性がいいな。」

 信号待ちに、テールランプを眺める。
 
「…夏はそのイトコを大事にしないとね。でも、人の幸せの価値観はその人にしかわからないから、押し付けたりはしないほうがいいわよね。」

 橙子さんの幸せはなんだろうな。


 
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