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ここで待ってるから。
第8章 眺めの良い場所。
 守の真意がわからない。
 私が蓋をしている?
 キツそうに生きてる?

「橙子は今、幸せかい?」

 前に夏にも聞かれた。

「…幸せよ?」

 何故、そんなこと聞くの?

 守は私の頭をポンポンと子供をあやすように軽く叩く。

「橙子は時々、一人で耐える癖があるから心配なんだよ。昔から、しっかりしていたけど冷静でドライで。でも、寂しがりなのにそれを訴えない。小さな頃から一緒だったから、尚更心配になる。」

 私はそんな生き物だったのね。

「まぁ、また年末年始来るんだろう?あかりも子供が産まれてるだろうから、夏と来いよな。」

 守は私と夏を置いて部屋を出る。
 ベッドで眠る夏の寝息を感じる。
 指で顔から顎をなぞる。少しあいた唇に触れる。髪を梳いて撫でる。

 私もベッドにうつ伏せ、静かに目を閉じる。
 

「…橙子さん。橙子さん。」

 肩を揺らされ、ボーッと目をさます。薄明かりの中、ベッドの上に夏が上半身を起こしていた。私は、ベッドの縁に寄りかかっていた。

「…こっち、来てよ。」

 時計を見ると、深夜零時過ぎ。結構、がっつり寝ていたんだ。
 夏が布団をあけ、中に誘う。肩口の寒さに負け中に入る。…ぽかぽかしていて、暖かいな。

「ごめんね、橙子さん。」

 夏の腕の中にすっぽりと収まる。

「…何が?」

「…みんなの前で…あんな事。でも、我慢出来なかったんだ。」

 わかってる。謝らないで。
 夏の背中に腕を回す。胸に顔を埋め、首を横に振る。

「…どう頑張っても、橙子さんは深山さんの物なのにね。」

 その言葉にハッとする。
 …なんだろう、この気持ち。

「明日には、あっちに帰るんだよね。そしたら、また深山さんのとこに行っちゃうんだよね?俺がどんなに橙子さんを求めても、心も身体も深山さんの物になっちゃうんだよね?」

 胸が痛い。
 駄目。しっかり、蓋をして。しっかり、カギをして。

「…うん。」

 顔を上げられず、夏の心臓の音を聞く。

「橙子さん…。」

 夏の唇が、おでこに触れる。

「おやすみなさい。」

 私の心を閉じ込めた。



 翌朝、荷物を整え親戚達に別れを告げ実家を後にする。父も母も、山盛り手土産をもたせてくれた。
 また、半日かけて都会の部屋に帰る。
 明日からまた、いつもの日常がはじまる。


 



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