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ここで待ってるから。
第9章 嘘と、好きと嫌い
「橙子、大丈夫か?」

 しゃがみこんだ私の背後から声がする。
 そこに、涼介がいた。

「…涼介。ん、とりあえず帰る。休みながら帰るから。」

 仕事場では私と涼介が付き合っていることは内緒にしているので、こんな会話は聞かれたくないし見られたくない。
 近づいてくる涼介と距離をとる。
 先ほどの、女子たちの会話が頭に浮かぶ。

「車で送ろうか。」

「…いい。」

 自分でもびっくりするくらい、冷たく言い放ってしまった。今はとりあえず、ベッドに入って眠りたい。
 壁に沿って立ち上がり、歩き出す。
 涼介が後ろから、肩に手を添え会社の駐車場の方に連れて行かれる。

「…ねぇ、涼介。いいから。」

「自分の女がこんな状態で、ほったらかすなんてできるか?」

「…仕事。」

「俺が少し抜けても問題ない。」

 …それだけ、仕事が出来てるってわけね。そりゃ、お見合い話もくるでしょう。仕事が出来て、イケメンで、野心家なら…。

 助手席に座り、目を閉じる。

 涼介が私のおでこに手を当てる。

「風邪じゃないのか?」

「…違う。ちょっと、貧血。」

 どんなに深い関係になっていても、女の体の事情はあまり知られたくないものでなんとなく、誤魔化してみる。時々、腹痛に眉を寄せる。
 気がつくと、涼介は私の手に指を絡め繋いでいてくれた。
 その、優しさに胸が痛む。
 


 自分のマンションに着き、涼介が手を貸してくれて部屋に入る。
 涼介が私のスーツを脱がし、部屋着に着替えるのを手伝う。

「…薬は飲んだか?」

「お昼に飲んだ。ねぇ、涼介。」

「うん?なんだ?」

「…寝るまでそばにいて。」

 頭の中では、涼介を早く会社に返さないといけない…と思いながらこんな所で甘えてしまう。
 私は試しているんだ。
 こんな、仕方ない事を。
 私か仕事か…。
 自分を棚に上げて、何やってんだか。

 涼介は私をベッドに寝かせ、私の手を握り縁に腰掛ける。
 
 涼介の手の温かさに目を閉じ安らぎをみつける。

「涼介、お見合いするの?」

 それでも、モヤモヤしたままは嫌だったのでストレートに聞く。涼介の手が少し動く。

「誰に聞いた?」

「女子の中ではもう話題になってるよ。」

「そうか。なかなか、時間がなくて橙子には話せなかったな。近々、専務の娘と見合いはする。」




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