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セルフヌード
第5章 少女と被虐
「なつみ、やっぱり手伝うから、…………なつみ?」
十四年振りの筆跡が、なつみの記憶を抉り出す。
(もしも、私の身に何かあったら)
優しかった母親は、なつみに言った。
(貴女が辛くて苦しくてどうしようもなくなることがあったら)
(もしも、それが私の所為だと感じることがあったなら、……)
母親は、この箱を開くようなつみに言った。
それから数ヶ月後にこの世を去った。
不実の影など全くなかった。聖母の表層をしていた女は、良人と娘を無辺の愛の繭に守り、いつも明るい光を振り撒いていた。誰もが羨む女であり、誰もが羨む一家の中心的存在だった。
幸せな日々。いつまでも続くと信じた日々。
母親が、何故、こんなものをなつみに預けたのか。理解出来なかった。
この箱は、最後の救いだ。
なつみが遺言に従う時、きっとそれは、この命に終わりが迫った時。そんな気がしていた。
どうしようもなくなっていられなかった。
味方など誰一人いない。誰かに頼ろうという概念も持ち合わせなかった、死ぬことを望まれながら、生きたまま壊れることを強いられる日々。
母親の死が、なつみをこの世の異物だったと知らしめた。
広栄の暴虐は愛だった。なつみを、いつまでも母親に繋ぐ──…絶対的な、鎖。