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セルフヌード
第8章 *最終章*セルフヌード
真新しい一日が明けたばかりの、爽やかな緊張感が疎ましい。
時を巻き戻したくさえなる。ほんの数時間前に。
美人の自己演出は、赤ん坊にも通用した。
なつみは赤の他人も同然の乳児を相手に愛おしそうに笑いかけ、屈託ない賛辞を浴びせた。ことあるごとにぐずる咲希も、母親の恋人の前でようやっと可愛げのある娘になった。
美優は昨夜、咲希の母親である喜びを初めて覚えた。
咲希の半分は、良から出来ているというのに。
「ねぇ、なつみ──」
「ありがと」
「あ、……」
いつの間にか目的地に着いていた。いつだったか前にもなつみを送っていったビル。
あの後、美優は長年の友人と仲違いしたのだ。
「はい、気を付けて帰って。ベビーカーって押すの怖いね。慣れたらそうでもない?」
「…………」
乙女が重たい思いをするのは見ていられない。そう言って束の間なつみが美優から取り上げていたベビーカーが、手許に戻った。
家に帰りたくない。帰ったところで良が待っているだけだ。
不可視の濁った沈殿物が、美優の腹をにわかに痛めた。