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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
* * * * * * *
「だからね、お願い。今度絶対何か奢るから、口裏合わせて」
『良いけど、正直に言った方が良いと思うよ。みーこはその知り合ったばかりの友達と遊びの約束が入って、デートをやめにしたんでしょ。良先輩なら分かってくれるよ』
「そう、だけど……今更、言いづらいよ。はるこが職場でストレス溜めてて、発散に付き合うからって、言っちゃったんだもん」
『良いけど、さぁ、……』
電話の向こうで唸っているのは村山はるこ、美優の学生時分からの友人だ。はるこは良を未だ先輩と呼んでおり、良もはるこを元下級生として、可愛がってやっている。
有名カメラマンに弱みを握られてしまった。それで口封じのために、今日一日、言いなりにならなければいけない。
はるこにも、まして良に、とても打ち明けられる事実ではない。
『みーこ』
「ん?」
『みーこは昔から良い子だし、何か鼻にかけたりしないし、ちょっと後ろ向きなとこあるけど、他人から絶対奪い取ったりしない。傷つけない。神様は見てるよ。みーこのこと』
「どう、したの、……」
『良先輩のこと、信じて良いよってこと。私は仏教徒やクリスチャンじゃないけど、人智を超えた力って、あると思うんだ。私が神様ならみーこを世界一幸せにしてる。一番のプレゼントをあげる。良先輩は、何があっても、みーこを絶対幸せにするよ』
「──……」
はるこの人懐っこい声が、電話口でからからほぐれた。
彼女に他意はなかろうが、このタイミングで胸に突き刺さる。
神様からの最後の警告。
十七年来の親友のまごころに触れて、今また美優に罪の重さがのしかかる。
セルフヌードなど撮らなくても幸せになれた。幸せだ。
それなのに、愛情と性欲は背中合わせのようでいて、さしずめ別次元に存在していた。美優にとっては。