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セルフヌード
第8章 *最終章*セルフヌード



 美人の自己演出は、こういう時、初めて作動しなくなるのかも知れない。



 なつみは完璧な美人ではなかった。

 女なら誰もが羨むものを当たり前に持っているわけでもなかった。




 美優を見つめる真摯な目。ほのかに侠気で、甘ったるく軽らかなメゾ。

 饒舌な言葉の数々は、今だって、心を澄ませば震えている。




 美優のしめやかな緊張と、なつみのそれが、三カラットのダイヤモンドをよりいっそう輝かせていた。



「なつみ、でも、……」

「拒否権はなし。大丈夫。美人が泣き落とせば良くんもお義母さんも余裕だし。婚姻届も問題ないよ。『君へ』が出る前、女子二人オーケーか、とっくに確認済みだから」



「っ…………」






 美優はブーケをひったくって、離し難い女に飛び込む。



「大好きっ……」


 下ろしたての洋服に化粧がつくのも構わないで、たやわかな身体に抱きついた。


「愛してる……愛してる……私だってなつみを愛してる……、愛してる……」



 離れたくない。離れるのはほんの数時間だけ。



 今夜は修羅場だ。



 全く怖くない。美優の気持ちは変わらない。



 ずっと欲しかった言葉。


 なつみと一緒にいると、美優は、こうしていやが上にも感情表現を怠るようになってゆく。


 しかるべき言葉を見失っても、なつみは美優の胸裏にそっと寄り添う。





 今度こそ、この手を離したりしない。
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