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セルフヌード
第8章 *最終章*セルフヌード





 咲希は、良の実子であることを聞かされていない。


 十年前、美優は情熱的な大恋愛にのめり込んだ女のプロポーズを受けた。

 出逢いは最悪だった。最悪な遠距離恋愛まで経験して、もとより世間が不倫と呼ぶ関係だった。

 さんざんな目に遭わされたのに、美優の想いは変わらなかった。

 美優となつみをいっそう他人に貶めた、咲希さえ憎むようになっていたある日。


 …──結婚して。


 美優が大粒のダイヤモンドをはめられた夜、良は、存外にあっさり身を引いた。それからというもの、なつみの叔母と共闘して、美優の両親を説得までした。





「美優」


 官能的なメゾの声が、教育現場特有の空気を一変させた。

 臈たけた容姿に胸を覆う長さの茶髪、他の保護者達がはっと息を呑むきらびやかな装い──…美優の大好きな女の許に、咲希が駆け寄っていった。


「お父さん!」

「お疲れ様、咲希。……あっ、良くんいる。美優のこと誘拐しようとしてたでしょー」

「違うよ、俺はたまたま通りかかって」

「信じらんない。ダメだよ、美優は私のだから。お洋服の上から見るだけね」

「……お前に言われたくねぇよ。分かってるっつーの。俺も無様な真似はごめんだ」



 …──美優があんなままだったんじゃ、咲希の将来まで心配だ。


 良に別れを告げた夜、彼が口にした決別。

 美優の中で、ふっと蘇った。



「もう、お父さんもおじちゃんがそんなに心配なら、お母さんに会わせるの禁止にしちゃえば良いのに」

「咲希は、おじさんのこと嫌い?」

「ううん、好き」

「良かった。たとえパートナーでも、好きな人にとやかく言うようなやつは、その人の魅力を摘み取るの。咲希だって、お母さんがダメになるより、いつまでも綺麗で賢い方が嬉しいでしょ」
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