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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第2章 酔芙蓉の簪(かんざし)
 薫子は小さな悲鳴を上げた。疾駆する馬から少し離れた手前に、五歳くらいの男の子がいた。可哀想に怯えてしまって、身動きできないらしい。大きな瞳を見開いて馬を見つめている。その眼には、はっきりとした恐怖が浮かんでいた。
「誰か、あの子を助けないと!」
 薫子が叫んでも、誰も何も言わない。
「おじさん、誰かあの子を助けないと、馬に当たってしまうわ」
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