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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第2章 酔芙蓉の簪(かんざし)
 誰か身内がいるならば、早くに知らせてやりたいとも願ったけれど、この男がどこの誰なのかは皆目判らない。事故現場にいた連中にも訊ねてみたが、誰一人として彼を知るどころか、見かけたこともないと口を揃えて言った。
 身なりはごく平凡な庶民の男といった風体だ。強いていえば商人ではないかと思えるいでたちだが、面立ちはどこまでも品のある端正なものだ。薫子もまったく見当がつかなかった。
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