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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第2章 酔芙蓉の簪(かんざし)
 いや、それも満更外れているわけでもないんだけど。薫子は慌ただしく片付けをしながら、ぼんやりと考える。十九で自分を生んですぐに亡くなったという美貌の母、滅多に逢わない父、どちらも薫子にとっては遠い別世界の人たちだ。自分には本当の意味で、家族と呼べる人は優しい姉以外にはいない。
 薫子がまた何度目かの溜息を洩らしたまさにそのときだった。人々のざわめきが俄(にわか) に高くなり、人声がかしましくなった。
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