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私は犬
第26章 大切なこと*
私、これは契約だって分かっているつもりでいた。ちゃんと割り切っているつもりでいた。契約の満了の事が気になって、1日でも早く、この関係を終わらせなきゃって、そう思っていた。

でも、心の何処かで、自分は有史さんの特別だと勘違いしていたのも事実で。一緒に暮らして、週末を一緒に過ごして…。家族の想い出の場所へ連れて行って貰って。

もしかして、この人、私のこと好きなのかも?ってちょっぴり、そんな期待をしていたんだと思う…。じゃなければ、こんなにショックな筈ないもの…。

彼からしたら私なんか、契約の義務を伴った、セックス相手に過ぎない。

単なる契約相手なのに、沢山いるセフレの中の1人なのに、セックスするのはそれが契約だからなのに…。私、何を勘違いしていたんだろう。

あの女性達とは違うタイプだから。もしかしたら、地味なのが物珍しいだけかも知れない。とりあえずのお気に入りみたいな存在なのだろう…。

考えちゃ駄目。こういう時は、考えてもろくな結果にならない。だから仕事しよう。仕事で頭をいっぱいにして、寝てしまえばいい。週末は何処かに行こう…。今からチケット取って、何処か遠くへ…。

目の前の作業を黙々とこなしながら、この海底から脱出する方法を模索する。中田さんにチケットの手配をお願いして、あれこれと思案にくれた。金曜日の夕方、退社後、そのまま日本を発って、月曜日、そのまま出社すればいい。

3日もあれば、気持ちは落ち着く。だから大丈夫。
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