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私は犬
第9章 お仕事です④
その女性は、私たちの姿を捕らえると、ほんの一瞬ビックリしたような顔をしたものの、すぐに満面の笑顔になって

「てっちゃんみーっけ」と言いながら軽やかに階段を登ってきた。

良かった。これで帰れるわ。

「それでは、失礼いたします」

階段を降りてすれ違いざまに、力のこもった目でキッと見られて、その目付きから漂う雰囲気が、どことなく渡辺さんに似ているように思えた。

「なんでぇ。そんなの食べて。もう〜っ。お弁当なら、ももかが作るのにぃ。」

という、媚びたような甘ったるい声を聞きながら、扉を閉めた。

あの女性はももかさんって仰るのね。恋人がいるなら大切にすればいいのに。私になんて構わないで…。





総務課へ戻る途中、自動販売機のある休憩スペースの辺りから、聞いた事のある声が聞こえていて

立ち聞きするつもりは無かったのだけれど、私の名前が出ていたから立ち止まってしまった。

「……でもさぁ〜お前狙ってたじゃん」

「ちょっと可愛いと思って声かけただけだよ。」

この声は神部さんね…。

「自分より背が高い女なんて、ありえねぇー。」

「まあな。でも俺、九宝ちゃんよりちょっと高いし。」

「バッかお前。ヒール履かれてみろ。余裕で越されるぞ。」
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