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私は犬
第33章 さよなら
そのニヤニヤ顔やめて欲しい。あーっイライラするっ。キッと睨むように視線を向けると、有史さんの顔が赤くなった。

「……行くぞ。」

勝手に、何処にでも行けばいいのに。

途中、会社員風の人を数人見掛けたものの、知っている顔と遭遇する事はなく、そのまま10分ほど歩いて、会社のビルにたどり着いた。

「私、あちらを使うから。ごきげんよう。」

そう告げてエレベーターの手前で別れた。地下のフィットネスクラブの入口が、別になっていて良かった。じゃなくちゃ、もっと沢山の人に見られていたと思う。

いつもの面倒な手順を経て、執務室に着いた頃には7時少し前になっていた。長く休んでいたから、やるべき事、やらなければならない事がきっと山積みだ。

仕分けられた書類に、順番に目を通していると、出社してきた中田さんに声を掛けられた。

「おはようございます。この度は大変でしたね。」

あぁ、中田さんも、春木さんから事情を知らされていたんだっけ…。

「長い間、休暇を頂いて申し訳ありません。今日からまた宜しくお願いします。エンデ氏から、ありがとうと御花のお礼を言付かってまいりました。」

中田さんは、葬儀に御花を贈って下さった。海の向こうにまで花が届けられるなんて、知らなかった。
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