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陽炎ーカゲロウー
第4章 過去
結局、長屋の人間だけではサチ1人を背負い込む事すら出来なかった。
それより以前に、サチ自身が、先の大人の話を聞きかじり、もうここには居られないと心を決めていた。
行くあてなどない。
ただ、皆に見咎められぬよう、夜中にひっそりと長屋を出た。
大人も幾人かは、サチが出て行くことに気付いていたが、引き止めた所でまた揉める種になるのは分かっている。
何とか一人でやってくれと、見て見ぬふりを決め込んだ。
長屋を出てはみたものの。
歩けど歩けど何もない。
そのうち腹が減ってきて、動けなくなる前にそこいらに落ちていたムシロを身体に巻き、見知らぬ民家の前に座り込んだ。
朝になり、家の者が出てきて、サチの姿を見るなり、驚いて叫ぶ。
「こんなところにいないどくれ!」
と、石や砂を投げられた。
仕方なくまた歩き、疲れては休み、休んでは追われる、その繰り返しだった。
夜、畑に忍び込み、野菜を盗んで食った。
わけなく人に殴られたり、物を投げられたりしながら、死んだほうがマシだ、と思うこともあった。
だが、どうすれば死ねるのか、サチにはそれすらもわからなかった。
また火傷を負えば死ねるかもしれないと思いながら、それだけは怖くて出来なかった。
それより以前に、サチ自身が、先の大人の話を聞きかじり、もうここには居られないと心を決めていた。
行くあてなどない。
ただ、皆に見咎められぬよう、夜中にひっそりと長屋を出た。
大人も幾人かは、サチが出て行くことに気付いていたが、引き止めた所でまた揉める種になるのは分かっている。
何とか一人でやってくれと、見て見ぬふりを決め込んだ。
長屋を出てはみたものの。
歩けど歩けど何もない。
そのうち腹が減ってきて、動けなくなる前にそこいらに落ちていたムシロを身体に巻き、見知らぬ民家の前に座り込んだ。
朝になり、家の者が出てきて、サチの姿を見るなり、驚いて叫ぶ。
「こんなところにいないどくれ!」
と、石や砂を投げられた。
仕方なくまた歩き、疲れては休み、休んでは追われる、その繰り返しだった。
夜、畑に忍び込み、野菜を盗んで食った。
わけなく人に殴られたり、物を投げられたりしながら、死んだほうがマシだ、と思うこともあった。
だが、どうすれば死ねるのか、サチにはそれすらもわからなかった。
また火傷を負えば死ねるかもしれないと思いながら、それだけは怖くて出来なかった。