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陽炎ーカゲロウー
第5章 欲
「市九郎…」
腕の中で、そっと名前を呼ぶ。
市九郎は僅かに身動きし、聞こえている素振りは見せたが、返事はない。
「なんで、私なの…?」
ずっと聞きたくて、聞けなかった疑問。
今宵こそは。
「なんの話だ」
「市九郎なら、もっと見目のいい女がいくらでも選べるのに…なんで、私を囲うの」
「なんか文句でもあんのか?」
「違う、ただ、不安なの」
「何が。俺が突然お前に飽きておっぽり出すんじゃねえか、ってことか?」
「………」
市九郎は、ぎゅう、と赤猫を抱き締めた。
それが、答えなのか。
嬉しい気持と、物足りない気持が入り混じる。
「こんな火傷がなけりゃ、こんな気持にはならなかった…もっと、自分に自信が持てたのに…」
ぽろり、と涙が溢れた。
胸に伝う女の涙を肌に感じてか、市九郎は赤猫を離し、暗闇の中そっと肩を掴む。
「今更何言ってやがる。女抱くのにツラなんか関係ねぇよ。どんな別嬪だって暗きゃ見えねぇや。…だいたい、ツラ気にする男がお前囲う訳ねぇだろうが。」
呆気ないほど、簡単な答えだった。
なぜ、私なのか、そんなことは関係なかった。要するに、誰でも良かった、ということか。
腕の中で、そっと名前を呼ぶ。
市九郎は僅かに身動きし、聞こえている素振りは見せたが、返事はない。
「なんで、私なの…?」
ずっと聞きたくて、聞けなかった疑問。
今宵こそは。
「なんの話だ」
「市九郎なら、もっと見目のいい女がいくらでも選べるのに…なんで、私を囲うの」
「なんか文句でもあんのか?」
「違う、ただ、不安なの」
「何が。俺が突然お前に飽きておっぽり出すんじゃねえか、ってことか?」
「………」
市九郎は、ぎゅう、と赤猫を抱き締めた。
それが、答えなのか。
嬉しい気持と、物足りない気持が入り混じる。
「こんな火傷がなけりゃ、こんな気持にはならなかった…もっと、自分に自信が持てたのに…」
ぽろり、と涙が溢れた。
胸に伝う女の涙を肌に感じてか、市九郎は赤猫を離し、暗闇の中そっと肩を掴む。
「今更何言ってやがる。女抱くのにツラなんか関係ねぇよ。どんな別嬪だって暗きゃ見えねぇや。…だいたい、ツラ気にする男がお前囲う訳ねぇだろうが。」
呆気ないほど、簡単な答えだった。
なぜ、私なのか、そんなことは関係なかった。要するに、誰でも良かった、ということか。