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陽炎ーカゲロウー
第6章 動
後日、市九郎が赤猫に用意したのは、小刀だけではなかった。
「お前は身体が小せぇからな。重い獲物を扱うのは無理だ。小刀は軽いが、接近戦しかできねぇ。
なりが小さきゃ懐に飛び込むのはワケねぇだろうが、相手の獲物や体格によっちゃあどうしたって不利だ。
それよか離れたとこから仕留められるように、飛び道具の稽古してみろ」
そういって、棒手裏剣を数本と、小刀を一振り示す。
懐に小刀、腿に棒手裏剣を装着し、着物も動きやすい形にし、怪我除けの手甲、脚絆をつけた姿はまるで九ノ一のようであった。
扱ったことのない棒手裏剣の手解きをしてくれたのは、幹部の一人、八尋[ヤヒロ]という男だった。
線が細く、華奢で、女のような美しい顔立ちをしている。動きがとても素早く、しかも無駄がない。
話し方や物腰が穏やかで、他の男とは明らかに違う。
盗賊にはとても見えない。まるで役者が何かのようだった。
八尋はしっかりと、赤猫に棒手裏剣の扱いを教えてくれた。
姿勢から始まって、打ち方、当て方。
戸板を的に、距離や高さを変えて、幾日も稽古を重ねる。
八尋の教え方は巧みで、また赤猫の筋も良かったのだろう。程なく、赤猫は棒手裏剣を使いこなすようになった。