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陽炎ーカゲロウー
第6章 動
そして。
赤猫も陽炎の仕事に加わるようになった。
面相から紅一点ともてはやされることこそなかったが、それでも市九郎の息のかかる組織内で、彼女にあだなす者はいなかった。

盗賊、というと集団で里に下り、残虐の限りをつくし、根こそぎ奪う、という印象であったが、陽炎は違った。

周到な下調べと計画の元、必要なものだけをかすめて消える。

忍び入るのも不正に私腹を肥やす役人の役宅や、金に汚い豪商、豪農ばかり。

ただ義賊と違うのは、その稼ぎを貧しいものに施すことはない、その一点に尽きた。

計画したものの他、目につくお宝に手を触れるな、という命は、ならず者には厳しいものではあったが、
それさえ守れば掠りも捕まりもしない、という安定感と、掟を破れば厳しい制裁が下されるということもあり、留まっているものが大半だった。

また、これは市九郎が定めた掟ではなかったが、足抜けしたものから組織の内情がばれるのでは、という懸念から、互いが互いを牽制し合い、組織は不思議な均衡を保っていた。


赤猫は覆面の手裏剣使いとして、手裏剣の師匠である八尋と行動を共にするとこが多かった。屋根の上などに潜み、実行部隊の遂行時間を稼ぐ。所謂援護射撃というやつだ。
八尋は、市九郎の情婦である赤猫に、誰よりも丁寧に接してくれた。

仕事を終えると赤猫は一足先に家に戻り、湯を使う。

計画によって動員人数が違い、総出の仕事はほぼなかった。
その為アジトには常に人が居る。
おおよその戻り時間に併せて湯の準備がされていた。

市九郎はアジトに帰ると幹部と別の建屋に籠り、稼ぎを分配してから家に戻るので、支度の時間は十分にあった。




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