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陽炎ーカゲロウー
第7章 八尋
八尋は話を続ける。
「男を好む男の中には、年端の行かぬ少年を好む者もおります。私は、そんな男に買われました。
大人のように、一晩幾らではありません。身請けでした。かなりの金子を積んだのでしょう。座長は二つ返事で私を引き渡しました。」

「その頃、私は十二、三でしたでしょうか。とある豪商の、太った男でね。私は毎夜、その男に弄ばれました。」
八尋の顔に、翳りがさす。
「こんな顔立ちですから。私は殊の外気に入られたようで。
お前は一生儂の慰み者であれ、と。お前に男の証など要らぬ、と。
去勢されました。」

「去勢、って…なに?」
「男の証を切り取ることです。ご覧になりますか?」
「え?」
「頭領の身体と比べれば、よく分かると思いますよ。」
「それは….ここで着物を脱ぐ、ってこと?」
八尋はことも無げに頷いた。
「私は一向に構いませんよ。こんな醜悪な身体に、最早羞恥心などありませんから。」
「そ、それは、いい。…いい。」
赤猫は、ふるふるとかぶりを振った。そんな、人の傷口を覗いて掻き回すような行為はとてもできない。
「そうですか。では止めておきます」
八尋はまた、ニコリと笑った。
「私の様な人間は、清国には沢山いるそうです。」
「清国?」
「海を隔てた外国[とつくに]です。彼の国では、皇帝の居城に仕える男は、万が一にも妃と間違いを犯さぬように、去勢するのだとか。ただ、この国にはそのような風習がありませんから。私の様な者は異質でしょうね。」

「十二、三で。まだ男として体の完成していない時期に、去勢したからなのか、それは分かりませんが。その頃に比べ、背は伸びましたが、並の男程の力もない。声もなよなよと高いままです。私は男になりきれなかった、元、男です。今は、何者でもありません。」
「八尋は、自分の事を、醜いと思っているの?綺麗だという私の言葉は信じられない?」
「たったひとつ。身体の一部を失っただけ。なのに、なぜでしょうね。自信の持ちようがないのです。」
八尋の笑顔は、とても哀しかった。
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