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陽炎ーカゲロウー
第7章 八尋
深夜に、小屋に辿り着き、その日はそのまま、そこで寝ました。
布団一つない、夏場の仮小屋だったようです。
翌朝、頭領は私に自分の着物を貸してくださいました。下帯も渡されたのですが、私は旅芸人一座にいた時からずっと、女物の着物ばかり着ていたので、下帯の締め方がわからず、手に持ったままぼんやりしていました。
「お前、真逆下帯の締め方もわからねぇのか?こうやんだよ」
と頭領が教えてくれた時に、私の身体に、あるべきものがないことに気付いたのでしょう。
頭領は顔を顰めました。
そしてただ、一言。
「これは…あの狸ジジィの仕業か」
とだけ聞いてきました。
私が頷くと、頭領は苦虫を噛み潰したような顔で、
「クソが…!」
と呟き、ギリ、と歯噛みしました。
私は、それまでそういった経験がなかったので、頭領が、私のために怒っているということが今ひとつわかりせんでした。
ただ、頭領の機嫌が悪くなったのだと思って、恐ろしく感じたものです。
頭領はすぐに元の顔に戻り、私に着物を着せると、小屋の中で粥を炊いて、干した魚を焼いて食べさせてくれました。
「お前、名は?」
「八尋」
「八尋か。俺は市九郎だ。」
布団一つない、夏場の仮小屋だったようです。
翌朝、頭領は私に自分の着物を貸してくださいました。下帯も渡されたのですが、私は旅芸人一座にいた時からずっと、女物の着物ばかり着ていたので、下帯の締め方がわからず、手に持ったままぼんやりしていました。
「お前、真逆下帯の締め方もわからねぇのか?こうやんだよ」
と頭領が教えてくれた時に、私の身体に、あるべきものがないことに気付いたのでしょう。
頭領は顔を顰めました。
そしてただ、一言。
「これは…あの狸ジジィの仕業か」
とだけ聞いてきました。
私が頷くと、頭領は苦虫を噛み潰したような顔で、
「クソが…!」
と呟き、ギリ、と歯噛みしました。
私は、それまでそういった経験がなかったので、頭領が、私のために怒っているということが今ひとつわかりせんでした。
ただ、頭領の機嫌が悪くなったのだと思って、恐ろしく感じたものです。
頭領はすぐに元の顔に戻り、私に着物を着せると、小屋の中で粥を炊いて、干した魚を焼いて食べさせてくれました。
「お前、名は?」
「八尋」
「八尋か。俺は市九郎だ。」